第一話  決まり手:1ターン目陰謀団式療法

 

「では、先攻いただきます。手札はキープ」

「私は……マリガンします」

 幸先のいい滑り出しだった。こちらの先攻初手キープに対し相手は後攻ダブルマリガン。その上、こちらの初手はまさに理想だ。

「では、ダブマリでキープします」

「始めさせていただきます。よろしくお願いします」

 唐突だが、誰にだってお気に入りのカードってヤツがあるだろう。俺にとってのそれはこの二枚だった。

「沼をセット」

 ローウィンコレクターナンバー291の色鮮やかな沼。 

「《陰謀団式療法》を唱えたい」

 そしてジャッジメントの誇る名アンコモン、《陰謀団式療法》。この2枚が揃っただけで、俺は初手のキープを決めていた。《魂流し》が4枚あったが気にしない。

「!?」

 相手の驚きが手に取るようにわかる。お互いのデッキがわからない状態でのダブルマリガン、恐らく《Force of will》は構えていない。万が一持っていたとしても、それを使えば手札は3枚。相手には甘んじてこれを受ける他に無いのだ。

「宣言は……」

 そして、ここからが俺の本領だ。俺は全神経を働かせ、相手の手札を睨み付ける。まるで、その裏側を透視でもしているかのように。

 『《陰謀団式療法》は、その時一番使われたくないカードを宣言しろ』……。そんな無難でつまらないセオリーに従う俺ではない。俺の経験と直感が、プレインズウォーカーの火花が真実を解き明かす。相手の手札、確実に当ててみせる。

 シャッフルの癖、スリーブの入れ方、服のセンス、一分間の呼吸数。相手の全特徴を、経験という名のプロファイリングに当てはめ推理する。俺には解る、相手のデッキが。俺には解る、相手の手札が。

 デッキカラーは青・白・緑だ。そしてあのダブルマリガン、それが意味する答えは一つ。

 ――見えた、水のひとしずく――!

「宣言は、《貴族の教主》……!」

「…………!!」

 相手の手札から、二枚の《貴族の教主》が零れ落ちた。俺は勝利を確信する。

 手札は《貴族の教主》×2、《聖遺の騎士》、《霧深い雨林》×2。ダブルマリガンからはこれが限界のキープだったのだろう。しかし、その限界点すら俺は踏み超えてしまった。

 デッキは恐らくNew horizons。そのタイトなマナ基盤ゆえのダブルマリガン。そして、マナを支える教主を抑えたからこそのキープ。しかし、だからこそ……。

 やはり俺は、《陰謀団式療法》を愛している。あまりにリスキーで、それゆえに強力なこのじゃじゃ馬を。勝負は1ターンで決まった。決まり手はこの、《陰謀団式療法》だ。

「……すいません、ジャッジー!」

 我に返った様子の相手が突然ジャッジを呼び立てた。まさかイカサマを疑っているのだろうか。馬鹿な。

「はい、どうしました?」

「相手が《陰謀団式療法》をプレイしたんですが」

 俺のプレイに何の問題があったと言うんだ。俺は毅然と状況を受け止め、どんな抗議にも屈しないことを誓った。折角の勝利にケチをつけられてなるものか。

「え? 今日はスタンの大会ですよ?」

 しかし。

「ええ、ですから駄目だと思うんですけど……」
  
 その俺の決意は、運命の悪戯を前に脆くも崩れ去ってしまった。

「あの、申し訳ありませんが今日の大会はレガシーではなくスタンダードですので……」

「……なるほど、FRIDAYじゃねえの」

 こうして、俺の戦いはたった1ターンで終わった。相手はどうやら徴兵バントだったらしい。

 決まり手は、《陰謀団式療法》。人を狂わす、魔性のカード……。



 第一話  完

コメント

重海老@heavyLobster
2010年7月15日8:44

テラワロスwww

失礼しマスタww

来雷楼
来雷楼
2010年7月15日10:09

大丈夫かマジでw

オイスターマン(仮)@アイキッチン
2010年7月15日15:04

<重海老さん
本格ハードボイルドMTG小説です、多分……。

<らいらいさん
実在する人物・店とは一切関係がありません、多分……。

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